ごあいさつ

1階づくりはまちづくり

 
 私の趣味は、屋台を出すことです。自分のオリジナル屋台を携えてまちに出て、行き交う人々にコーヒーを無料で配っています。
 
 
 小さな屋台を介して都市と接していたら、こんなことに気付きました。そうか、私たちが「まち」と呼んでいるものは、目の高さの視界にあるんだ。「まち」は地面と、建物の1階にあるんだ。
 
 同時に、海外のエレベーターで「GL」というボタンを見て、驚いたことを思い出しました。日本の私たちにとっての1階を彼らは「Ground Level(Floor)」と呼び、私たちが2階と呼んでいるフロアから、1F、2F…… とカウントしているのです。
 
 もしかしたら、彼らは昔からわかっているのではないでしょうか。建物の中で「1階」だけは「まち」でもあるということを。1階は「建物」と「まち」、「プライベート」と「パブリック」の交差点であることを。だから他のフロアとは区別して、グランドレベルと呼んでいるのではないでしょうか。
 

紀元前から人の営みが存在し続けているイスラエルのグランドレベル(1階)

 
 建物の1階、道路、公園、広場、河川敷…… と、グランドレベルの景色には、切れ目がありません。気持ちよいまち、と思える光景や居心地とは、自分を含めたそこにあるすべての存在が、自然なバランスでつながり合っているもの、そのことを全身で感じられるものだと思います。
 
 グランドレベルは、オーナーの経済性から、地域性、社会性やその持続性といった、さまざまな基軸と密接な関係にあります。1階が変われば、まちは変わります。まちが変わるということは、ひとが、社会が変わることです。たったひとつの模範解答があるわけではありません。ただ、日本のグランドレベルには、計り知れない可能性がまだ、静かに眠ったままになっているのです。株式会社グランドレベルでは、あらゆる立場の方々と一緒に、その可能性に触れていきたいと思っています。
 
株式会社グランドレベル
代表取締役社長 田中元子
 
 
 
 
 
プロローグ
1階が死ぬとまちが死ぬ
 

 あるまちのマンションの1階には、長年、まちの人に愛されてきた喫茶店がありました。しかしある日、その喫茶店はマンションとともに壊されました。
 
 数年後、そこに建ち上がったのは、どにもでもある近代的なマンションでした。1階に喫茶店はありません。そこあるのは、エントランスとロビーと数台分の駐車場でした。こうしてまたひとつ、まちの人にとっての居場所がなくなりました。
 
 このようなことが、日々、日本中で起きています。一見、仕方のないことに思えますが、開いた1階が閉じた1階へと変わり続ける。その行き着く先は、まさに「死のまち」です。
 
 本当に仕方のないことなのでしょうか。どんな施設・建物も、1階にパブリックマインドを持たせ、立ち寄ったり、関わったりする「余地」をつくることは可能です。そういう日常づくりができれば、まちは再び息吹を取り戻します。これは、エリア一帯の不動産価値向上にも不可欠なことなのです。